INFORMATION

お知らせ

健康栄養学科

第73回日本栄養改善学会学術総会の教育講演で小田裕昭教授がプレシジョン栄養学について講演をします

 健康栄養学科の小田裕昭教授が、9月11日(金)~9月13日(日)に別府大学石垣キャンパス(大分県別府市)で開催される第73回日本栄養改善学会学術総会の教育講演で講演します。講演タイトルは、「プレシジョン栄養学―データ駆動型個別化栄養学―とプレシジョン行動変容の展望」です。
 第73回日本栄養改善学会学術総会のテーマは「ウェルビーイングを描く栄養学 ―多様な食を支える科学と実践の融合知―」であり、「基礎研究から疫学・介入研究、臨床・地域・教育の現場へと知をつなぐトランスレーショナルサイエンスの視点から、成果の社会実装をともに考える機会(会長高松先生の挨拶の言葉より)」として、日本栄養改善学会が邁進していることがわかる大会です。

第73回日本栄養改善学会学術総会
日程表・プログラム
▲クリックで拡大表示

講演の要旨

 人にはそれぞれの体質があり、その人に合わせた栄養を提供して、すべての人が健康でウェルビーイングを享受し、健やかな健康長寿社会を実現するために求められいるのがプレシジョン栄養学である。ゲノムを始めとする網羅的なオミックス解析などのビッグデータを情報通信技術、AI が個人対応させて、健康というアウトカムに向けて栄養を届けてくれるものである。つまり、体質というデータが牽引するデータ駆動型個別化栄養がプレシジョン栄養学である。プレシジョン栄養学は、かかりつけの栄養士、管理栄養士のようなものである。プレシジョン栄養学では、個人の体質を見える化して、健康食を提供して、実際に食べたものを評価して、次に新たな食事を提案して、無理のない行動変容によって健康へ導く、「プレシジョン栄養学実践サイクル」を回すものである。
 個人差はどこから来るのだろうか。ゲノムやマイクロバイオームなどのオミックス解析により、かなり個人差を絞り込める。しかし、予防医療を担うプレシジョン栄養学では、コストが大きな問題となる。すでに行われている定期健康診断のデータは重要な情報であ、AIにより将来の疾患が推測できることもわかってきた。私たちは、健診データにより「日本人の食事摂取基準」を個人対応させる「N式パーソナル食事摂取基準」を開発した。また、ウエアラブルデバイスは、コストが低いためプレシジョン栄養学には重要なデータ資源である。睡眠や代謝、体温などの概日リズムや呼吸、心拍などの生体リズムの総体のリズモーム(Rhythmome)のデータを使用して非侵襲的に個別化できる。特に摂食タイミングは多くの臓器の概日リズムを同調させて代謝を制御している。私たちは、時間栄養学の知見を生かして、体内時計を見える化するスマホアプリ(「時間栄養学時計」)を作成してきた。さらに、アプリの継続使用を目指して、デジタルツイン戦略を使って自身のアバターを利用するゲーム性を加えたスマホアプリ「ユーリズミック・ツイン」も作成した。
 体質の個人差を特定した後、その人にあった健康食を提供する「介入システム」が最も遅れている。未病の人にとって何を食べるかは自由であり、美味しさなど嗜好性を考慮しなくてはならず多様性も非常に大きい。「N式パーソナル食事摂取基準」による最適化された食事を提案するシステムとして、AIのLLM(カスタムGPTなど)やAIエージェントを使うメニュー提案の問題点を検討している。また、健康食を提案しても多くの人はそのまま食べるとは限らないため、次に「評価システム」が必要である。「評価システム」はすでに多くの会社がサービスを提供している。この「介入・評価システム」を日常生活で提供する「プレシジョン栄養学デジタルプラットフォーム」が次の課題となる。
 ところが、プレシジョン栄養学が実際の行動変容に結びつくかはわかっていない。行動変容理論は多岐にわたるが、従来の理論は集団を相手にするものであり、個別対応されていない。行動変容は生物学的な要因より心理学的要因が多く、複雑性がさらに増す。個別化されたプレシジョン行動変容理論はまだ提案されておらず、食行動に関しても個人の生物学的・行動学的・心理学的属性から最適なプレシジョン行動変容が可能だと考えられる。その人にあった行動変容の理論の個別化法や介入法の可能性について、個人に最適化されたプレシジョン行動変容を議論したい。

化学と生物 58, 309(2020)、臨床栄養 137, 298(2020)、「プレシジョン栄養学」建帛社(2024)、FoodStyle21 28, 29 (2024)、日本家政学会誌 76, 86 (2025)、食と医療 35, 13 (2025)